何度も外れが続くと、
「そろそろ当たるはずだ」
と思ってしまう。

反対に、大きく勝つと、
「また勝てるかもしれない」
と期待してしまう。

そんな経験はありませんか?

数学では、確率を使って
結果の起こりやすさを
計算することができます。

しかし、私たちの気持ちは、
いつもその計算どおりに
動くわけではありません。

なぜなのでしょうか。

今回は、過去の心理学研究を
たどりながら、人間が偶然を
どのように受け止めるのか、
一緒に考えてみたいと思います。

そもそも人間は、偶然を正しく理解できるのか?

公平なコインを投げると、
表と裏が出る確率は、
それぞれ50%です。

では、次のような結果が
出たとしましょう。

裏 → 裏 → 裏 → 裏

4回連続で裏が出ました。

さて、5回目は表と裏、
どちらが出ると思いますか?

「そろそろ表が出そうだ」

そう感じる人も
いるかもしれません。

しかし、公平なコインを
毎回独立して投げるなら、
5回目に表が出る確率も
50%のままです。

過去に何度裏が出ても、
次の結果は変わりません。

偶然は、帳尻を合わせてくれない

ここで大切なのは、
確率が50%だからといって、
短い回数で表と裏が
半分ずつ出るとは
限らないということです。

4回続けて裏が出ても、
数学的には不思議では
ありません。

それでも私たちは、
表と裏が交互に出る方が
自然だと感じることがあります。

まるで偶然が、
過去の結果を見て、
帳尻を合わせてくれるように。

しかし、独立した抽選には、
そのような仕組みは
ありません。

「そろそろ当たる」という思い込み

心理学では、
こうした考え方を
「ギャンブラーの誤謬」(こびゅう)
と呼んでいます。

誤謬とは、考え方や判断に
誤りがあることです。

例えば、当たり確率が
毎回1/399のパチンコを
考えてみましょう。

すでに500回転して、
一度も当たっていない。

そんなとき、
「これだけ外れたのだから、
次は当たりやすいはずだ」
と思うかもしれません。

しかし、毎回同じ確率で
独立して抽選されるなら、
次の1回転も1/399です。

過去に外れが続いたことだけで、
次の当たり確率は
変わらないのです。

もちろん、実際の遊技機には
状態によって確率が変わる
仕組みもあります。

ここでは毎回1/399という
単純な条件で考えています。

なぜ、間違った予測をしてしまうのか

私たちは、物事の中に
規則性を見つけようとします。

いつも同じ結果が続くと、
次は違う結果になるのでは
ないかと考えることがあります。

しかし、そこに本当に
規則性があるとは限りません。

偶然の結果に、
存在しない規則性を
見つけてしまう場合があるのです。

研究が教えてくれる人間の判断

1970年代、心理学者の
ダニエル・カーネマンと
エイモス・トベルスキーは、
人間が不確かな出来事を
どう判断するかについて、
重要な研究を進めました。

彼らが注目したのは、
私たちが必ずしも
数学的な計算だけで
判断していないことです。

人は複雑な問題に出会うと、
経験や印象を手がかりに
答えを考えることがあります。

これは日常生活を送るうえで
役立つ場合もあります。

ただし、偶然の結果を
予測するときには、
判断を誤ることもあります。

確率を知っている人でも間違える?

ここで興味深いのは、
数学の知識があれば
必ず正しく行動できるとは
限らないことです。

2025年に発表された研究では、
参加者に偶然の結果を
予測してもらいました。

その結果、次に何が起こるか
一つ選んでもらう場合と、
それぞれの確率を数字で
答えてもらう場合とでは、
判断に違いが見られました。

この研究は、
人間の思い込みが、
単純な確率の知識不足だけで
生まれるとは限らないことを
示唆しています。

つまり、正しい知識を持つことと、その知識を実際の判断に使うことは別の問題なのかもしれません。

「そろそろ当たる」と「また勝てる」の違い

ここで、もう一つ
考えてみたいことがあります。

何度も負けると、
「次こそ当たるはずだ」
と思う場合があります。

しかし、大きく勝った後には、
「また勝てるかもしれない」
と期待することもあります。

一見すると、
反対の考え方に見えます。

前者は、外れが続いたので
次は当たると考える。

後者は、当たりが続いたので
次も当たると考える。

心理学では、後者のような
連続した成功への期待を、
「ホットハンド信念」と
呼ぶことがあります。

ただし、実際に技術や調子が
結果へ影響する競技と、
独立した抽選とでは、
事情が異なります。

大切なのは、
過去の結果だけから
次の結果を決めつけないことです。

大きく勝った記憶は、次の期待につながる

私自身、長年パチンコや
スロットにのめり込んだ
経験があります。

その中で強く記憶に
残っているのは、
連チャンして大きく
勝ったときのことです。

そして、また同じように
勝てるかもしれないと期待して、
店に向かった経験も
何度もありました。

しかし、過去に大きく
勝ったからといって、
次も勝てるとは限りません。

当時の自分が、なぜ
そこまで期待していたのか。

その原因を一つに
決めることはできません。

ただ、心理学を学ぶことで、
自分の記憶や期待を
別の角度から考えることが
できるようになります。

ここには、次回以降に
詳しく考えたい問題があります。

なぜ人は、過去の大きな勝利を強く記憶し、次の判断に結びつけることがあるのだろうか。

確率を理解すれば依存症は防げるのか?

ここは誤解してほしくない
大切な部分です。

確率を理解することと、
ギャンブル依存症を防いだり
克服したりすることは、
同じではありません。

ギャンブル障害には、
行動を制御することが
難しくなるなど、
さまざまな問題が関係します。

単なる意志の弱さや、
数学の知識不足だけで
説明できるものではありません。

また、必要な場合には
医療機関や専門の相談窓口など、
外部の支援を利用することも
大切な選択肢です。

私たちが数学や心理学を
学ぶ目的は、誰かを
批判することではありません。

自分の判断に影響する
仕組みを知り、
考えるための選択肢を
増やすことにあります。

「次こそ」と思ったときに考えたいこと

今回学んだことを、
日常生活にも当てはめて
考えてみましょう。

過去に失敗が続いたから、
次は必ず成功する。

過去に成功したから、
次もきっと成功する。

どちらの考え方も、
それだけでは十分な
根拠になりません。

もちろん、仕事や勉強では、
経験や努力によって
成功の可能性が変わることも
あります。

しかし、独立した偶然の結果は、
努力や気持ちだけで
変えられるものではありません。

だからこそ、何かを
判断するときには、
次のことを考えてみたいのです。

「これは実際の根拠に
基づいた判断だろうか」

「それとも、過去の経験から
生まれた期待だろうか」

すぐに答えが
見つからなくても構いません。

その違いに気づくことが、
自分の判断を見直す
第一歩になるかもしれません。

数学と心理学は、人間の何を教えてくれるのか

約370年前、パスカルと
フェルマーは賭け事の問題を
数学で考えました。

その後も多くの研究者が、
人間は偶然をどのように
理解するのかを調べてきました。

数学は、結果の起こりやすさを
数字で考える方法を
教えてくれます。

一方、心理学は、
その数字を知っていても
私たちの判断が揺れる理由を
考える手がかりになります。

どちらか一方だけでは、
見えてこないことがあります。

そして、過去の研究を学ぶと、
今の自分の考え方も
見つめ直すことができます。

人間は、知っていることだけで判断しているわけではない。

経験や記憶、期待なども、
私たちの選択に
関わっているのでしょう。

最後に、一つだけ
問いかけたいと思います。

「私は今、何を根拠に『次こそ』と思っているのだろうか?」

その問いが、自分の判断を
少し違う角度から考える
きっかけになればうれしいです。

参考資料

Oxford Bibliographies:ギャンブラーの誤謬の解説

Clotfelter & Cook:宝くじ購入行動とギャンブラーの誤謬

2025年の研究:ギャンブラーの誤謬と判断過程

ギャンブルに関する認知の偏りの研究レビュー

WHO:ギャンブル障害と健康への影響