友人の成功を聞いて、
素直に喜べなかった。
同じ年代の人が活躍する姿に、
自分だけが取り残されたような
気持ちになった。
そんな経験はありませんか?
「人と比べても意味がない」
頭では分かっているのに、
つい比べてしまう。
そして、そんな自分にまで
嫌気が差してしまうことも。
しかし、他人と比較することは
本当に悪いことなのでしょうか。
実はこの疑問について、
約2400年前の哲学者も
深く考えていました。
歴史と現代心理学を通して、
人間の心の仕組みを
一緒に探ってみましょう。
約2400年前、哲学者は嫉妬を考えていた
古代ギリシャの哲学者、
アリストテレス。
紀元前4世紀に生きた彼は、
著書『弁論術』の中で
人間の嫉妬を分析しています。
彼が注目したのは、
人は自分に似た相手に
嫉妬しやすいという点です。
例えば、世界的な大富豪の
成功を聞いたとします。
あまりにも自分とかけ離れた
世界の話に感じるかもしれません。
ところが、同じ年代の友人が
大きな成功を収めたと聞くと、
心がざわつくことがあります。
「あの人にできるのなら、
自分にもできたのでは?」
そんな思いが生まれるのです。
アリストテレスは、
年齢や境遇などが似た人との
関係に注目していました。
人間は昔から、他人との違いに
心を動かされていたのですね。
ただし、これは古代の
哲学者による考察です。
現代の科学的な研究結果と
そのまま同じではありません。
1954年、比較する理由が研究された
時代は約2300年後。
1954年、心理学者の
レオン・フェスティンガーが
「社会的比較理論」を発表しました。
この理論では、人間には
自分の意見や能力を
確かめたいという傾向があると
考えられています。
例えば、初めて5キロを
走り切ったとしましょう。
「自分はどれくらい
走れるようになったのだろう?」
そう考えたとき、
同じ年代の人の記録が
参考になるかもしれません。
つまり、他人との比較には
自分の現在地を知る役割もある
ということです。
比較するのは、
嫉妬深いからとは限りません。
自分を理解しようとする心の
働きでもあるのです。
なぜ比較すると苦しくなるのか?
心理学では、自分より
優れていると感じる相手との
比較を「上方比較」と呼びます。
例えば、自分より収入が多い人、
仕事で成功している人、
新しい挑戦を続けている人。
そうした人を見たとき、
二つの反応が考えられます。
一つは、
「自分も挑戦してみよう」
という前向きな気持ち。
もう一つは、
「自分には無理だ」
という落ち込んだ気持ちです。
1997年の心理学研究では、
優れた人の成功が
自分にも達成できそうだと
感じられる場合には、
励みになることが示されました。
反対に、達成できないと
感じる場合には、
自己評価が下がることもあります。
同じ人の成功を見ても、
受け止め方は違うのです。
ここで考えたいのは、
他人の成功によって、
自分の価値まで決めていないか
ということです。
他人が成功したからといって、
あなたの経験や努力が
消えてしまうわけではありません。
SNSでは比較の相手が増えている
現代では、スマートフォンを
開くだけで、さまざまな人の
暮らしを見ることができます。
旅行、収入、仕事の成果、
楽しそうな家族との時間。
しかし、画面に映っているのは
その人の人生の一部分です。
それに対して私たちは、
自分の失敗や不安まで含めた
人生全体を知っています。
この二つを比べれば、
自分だけが劣っているように
感じることもあるでしょう。
2022年の研究レビューでは、
SNSでの比較が心に及ぼす影響は
一様ではないと報告されています。
落ち込む場合もあれば、
刺激を受ける場合もあります。
大切なのは、
SNSが必ず悪いと決めることではなく、
自分が何を比べているのかを
見つめることではないでしょうか。
他人との比較を学びに変える3つの問い
比較する気持ちを、
無理になくす必要はありません。
それよりも、比較によって
何を考えるかが大切です。
① 何をうらやましいと感じたのか?
収入でしょうか。
自由な時間でしょうか。
それとも、新しい挑戦を
続けている姿でしょうか。
具体的に考えてみると、
自分が大切にしたいものに
気づく場合があります。
② 結果だけを比べていないか?
他人の成功には、
見えていない背景があります。
積み重ねた時間や経験、
周囲の助けや運。
結果だけを見て、
自分と同じ条件だったと
思い込んでいないでしょうか。
自分とは異なる事情があると
考えることも大切です。
③ 今の自分に何ができるだろう?
誰かの成功を見たとき、
その人に追いつくことだけを
目標にする必要はありません。
参考になる習慣を一つ調べる。
興味のあることを学んでみる。
できそうなことから始める。
比較を自分の価値の判定ではなく、
学ぶための情報にする。
それも一つの向き合い方です。
まとめ|他人の人生は、自分の価値を決めない
約2400年前、アリストテレスは
人間の嫉妬を分析しました。
そして1954年、
フェスティンガーは
社会的比較理論を発表しました。
時代は大きく違っても、
他人と自分の関係を考えることは
人間にとって重要な問題でした。
他人と比較してしまうことを、
すぐに否定する必要はありません。
比較によって傷つく日もあれば、
学びのきっかけになる日もあります。
もし誰かの成功を見て、
心が苦しくなったときは、
こんな問いを持ってみませんか。
「あの人と比べて、
自分には何が足りないのか」
ではなく、
「あの人から、
自分は何を学べるだろうか」
他人の人生は、
あなたの価値を決める
ものさしではありません。
自分の人生を考えるための
一つの手がかりなのです。
参考資料
アリストテレス『弁論術』第2巻第10章 — 自分に似た境遇の人への嫉妬について。
Festinger(1954)A Theory of Social Comparison Processes — 他人との比較によって自己評価を行う理論の原著論文。
Lockwood & Kunda(1997)Superstars and Me — 他人の成功が励みにも落ち込みにもなり得ることを扱った研究。
Meier & Johnson(2022)Social Comparison and Envy on Social Media — SNS上の比較と幸福感についての研究レビュー。